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メチレンブルーと術後の認知機能:ヒトを対象とした試験と動物での作用機序

高齢者は、大きな手術を受けた後、以前ほど明瞭に考えられなくなることがあります。家族がその変化に気づき、臨床医が検査で測定します。問題は、麻酔の前後に投与したメチレンブルーが脳を保護するかどうかです。この問いに関わるエビデンスは2種類あり、それぞれ異なる側面に答えています。ヒトを対象とした周術期試験は、患者に何が起きたかを報告します。高齢マウスのモデルは、神経細胞内で保護作用がどのように生じる可能性があるかを提示します。どちらも、もう一方の代わりにはなりません。
まず、しばしば混同される2つの転帰を区別する必要があります。
せん妄と検査で測定した認知機能低下は異なる概念
術後せん妄は、注意と意識に生じる急性の障害で、その状態は変動します。ある時間には意識が明瞭でも、次の時間には混乱していることがあります。病院では、3D-CAMなどのベッドサイド評価法を用いて検出します。1回の評価では見逃す可能性があるため、通常は1日に複数回評価します。
術後認知機能障害は、これとは別のものです。記憶、注意、実行機能を対象とする正式な検査で、患者本人の術前の基準値と比べて成績が低下した状態を指します。検査は数日後または数週間後に実施します。一方があっても、もう一方があるとは限りません。
この区別が重要なのは、2つの転帰が異なる評価法を用い、異なる時点に、異なる評価者によって測定されるからです。試験が両方を報告している場合は、2つの別々の主張として読み解いてください。こうした試験論文の読み方の基本は、メチレンブルー研究の読み解き方で説明しています。
ヒトを対象とした試験の内容
ヒトに関する主なエビデンスは、2021年にJournal of Clinical Anesthesiaに掲載された華山病院の非盲検ランダム化試験から得られています。この試験には、脳神経外科手術を除く待機的な大規模非心臓手術を受ける60から80歳の患者248人が参加しました。対象には、胸部手術、整形外科手術、泌尿器科手術、大規模腹部手術が含まれました。半数には、メチレンブルー2 mg/kgを50 mLに希釈し、麻酔導入直後から60分以内に静脈内投与しました。残りの半数には、同じスケジュールで生理食塩水50 mLを投与しました。
主要評価項目はせん妄でした。評価者は、術後1日目から5日目まで、または退院まで、少なくとも6時間の間隔を空けて1日2回、3D-CAMによるスクリーニングを実施しました。陽性の場合は、Memorial Delirium Assessment Scaleを用いて状態を評価しました。回復室での混乱は、覚醒時せん妄として別に記録しました。認知機能は副次評価項目でした。手術前日と術後7日目前後に正式な検査バッテリーを実施し、少なくとも2つの検査で1標準偏差を超える悪化があった場合を認知機能低下と定義しました。これは早期の低下であり、現在では通常、神経認知回復遅延と呼ばれます。3か月後には、研究者はTICS-mという電話によるスクリーニングを実施しましたが、比較に必要な術前のTICS-m基準値はありませんでした。
早期の結果は、メチレンブルー群に有利でした。せん妄は、メチレンブルー群では124人中9人(7.3パーセント)、対照群では124人中30人(24.2パーセント)に発生しました。調整オッズ比は0.24、95パーセント信頼区間は0.11から0.53でした。早期の認知機能低下は、メチレンブルー群では124人中20人(16.1パーセント)、対照群では122人中49人(40.2パーセント)に発生しました。回復室での覚醒時せん妄は、両群で同程度で、約18パーセント対23パーセントでした。3か月後の電話評価のスコアはほぼ同じで、中央値は34.5と34.0でした。統計学的な差はありませんでした。
これらの数値は、限界と併せて読む必要があります。この試験は明示的に非盲検でした。麻酔科医は割り付けを知っていました。また、メチレンブルーは尿を3から5日間、青緑色に変えるため、患者や評価者に群の割り付けが分かる可能性があります。単施設の試験でもありました。適切な基準値の検査を伴う認知機能の追跡期間は約1週間でした。3か月後の電話スクリーニングでは、術前の電話評価スコアが存在しないため、基準値からの変化を示すことはできません。集計された悪心、嘔吐、めまいなどの事象は両群で同程度で、セロトニン症候群や臨床的に重大な溶血性貧血が報告された患者はいませんでした。発熱はメチレンブルー群で多くみられました(124人中16人対124人中3人)。肝機能異常は両群にみられ、肝切除を受けた症例に伴っていました。
高齢マウスのモデルが加える知見
別の18か月齢のマウスを対象とした研究は、臨床上の問いではなく、作用機序に関する問いを扱っています。雄のC57BL/6Jマウス45匹を、15匹ずつ3群に分けました。酸素のみの群、3パーセントのセボフルランに2時間曝露する群、同じセボフルラン曝露の2時間前にメチレンブルー5 mg/kgを1回腹腔内投与する群です。モリス水迷路で学習と記憶を検査し、海馬組織でミトコンドリアの形態と、ミトコンドリアの分裂を制御するタンパク質を調べました。
セボフルランは、プロテアーゼであるSENP3を増加させ、分裂制御因子Drp1から小さな修飾タンパク質(SUMO2/3)を外し、ミトコンドリアを断片化させ、迷路課題の成績を悪化させました。メチレンブルーの前投与は、この連鎖の各段階を逆方向に変化させました。Drp1の脱SUMO化が減少し、断片化が減少し、記憶の評価スコアが改善しました。著者らは、Drp1のSUMO化状態を、麻酔薬への曝露とミトコンドリアおよび認知機能への障害をつなぐスイッチとして提示しています。
これは具体的で検証可能な経路であり、ヒトで観察された結果を生物学的に理解しやすくします。ただし、このモデルが扱っていない条件にも注意が必要です。マウスは高齢でしたが、それ以外は健康で、麻酔のみを受けており、手術も併存疾患もありませんでした。薬剤は曝露の2時間前に腹腔内へ注射されました。この前投与の設計は、麻酔導入後に点滴する臨床試験とは異なります。マウスの海馬組織で得られた証拠は、同じ経路がヒトの結果を説明することを立証するものではありません。
2つの研究の比較
| 比較項目 | ヒトを対象とした非盲検試験 | 高齢マウスのモデル |
|---|---|---|
| 対象集団 | 1病院の60から80歳の手術患者248人 | 高齢の雄マウス45匹、15匹ずつ3群 |
| 曝露 | 全身麻酔下の大規模手術 | セボフルランのみ、手術なし |
| メチレンブルーの投与方法 | 麻酔導入後、2 mg/kgを60分かけて静脈内投与 | 麻酔の2時間前、5 mg/kgを腹腔内投与 |
| せん妄の評価項目 | 1日目から5日目に3D-CAMを1日2回実施。メチレンブルー群で減少 | 測定なし。マウスはこの概念を報告できない |
| 認知機能の評価項目 | 7日目の検査バッテリーでの低下。メチレンブルー群で減少。3か月後の電話スクリーニングでは差なし | モリス水迷路。前投与により記憶が保たれた |
| 作用機序の評価項目 | 組織での検証なし | 海馬のSENP3、Drp1のSUMO化、ミトコンドリアの形態 |
| 示されたこと | 盲検化と単施設という制約を伴う、早期の臨床的な兆候 | 保護作用と整合するミトコンドリアの経路 |
もう1つの、より大規模な試験計画は、この研究分野が向かう方向をより明確にします。登録された膵臓手術の試験NCT04529265では、55から80歳の患者314人を対象とし、参加者と転帰評価者を盲検化する二重盲検法を採用し、術中に合計3 mg/kgを2回に分けて投与する計画でした。主要評価項目は入院中のせん妄で、副次評価項目は7日目の認知機能、炎症マーカー、より長期の腫瘍学的追跡でした。登録記録では2024年12月に完了したとされ、その後、結果が2026年にJournal of Clinical Anesthesiaに掲載されています。非盲検試験の所見を確立した結論として扱う前に、注目すべきなのは、この盲検化された追試です。
手術室での安全性は家庭での使用には当てはまらない
上記の認知機能に関する結果はすべて、手術中に監督下で行われた静脈内投与から得られたものです。その環境には、麻酔科医、監視装置、蘇生用の薬剤、相互作用のある薬剤の確認が含まれます。これらの条件は、家庭での経口使用には当てはまりません。
特に注意すべき点は2つあります。メチレンブルーはモノアミン酸化酵素を阻害するため、セロトニン作用を持つ抗うつ薬と併用すると、セロトニン症候群を引き起こす可能性があります。このリスクは、注射剤の処方情報に枠囲み警告として記載されています。相互作用のある薬剤については、メチレンブルーの薬物相互作用で詳しく説明しています。G6PD欠損症の患者には、溶血のリスクがあります。尿や皮膚が青くなること自体は無害ですが、この変色は、今後の試験で非盲検試験以上に盲検化を徹底する必要がある理由でもあります。取り扱いと調達に関する一般的な安全原則は、メチレンブルーの安全性の基本にまとめています。
要点
高齢の手術患者を対象とした1件の非盲検試験では、術中に1回静脈内投与した後、せん妄と、検査で測定した早期の認知機能低下が大幅に少なかったと報告されています。一方、3か月後の認知機能には差がなく、著者ら自身が開示した盲検化の弱点もあります。高齢マウスの麻酔モデルは、そのような保護作用が生じる仕組みについて、筋の通ったミトコンドリアを介する説明を示しています。これらは、盲検化された追試を待つ臨床的な兆候と、ヒトでの確認を待つ作用機序という、2つの別々の記述として扱ってください。加齢に伴う記憶の変化をより広く追っている読者には、メチレンブルーと加齢に伴う記憶も参考になります。